それは、誇らしくも不思議な光景でした。有名俳優が千葉ニュータウン中央駅改札に立ち、矢切駅では世界的ミュージシャンがギターをかき鳴らしています。監督の「アクション!」の一声でカメラが回り始めると、見慣れた北総線のホームや改札が一気に違った世界に変わり、映画やドラマ、CMの舞台として輝きを放ちました。仕掛けたのは、当社運輸部・旅客課の面々でした。「電車の本数が少ない分、貸し切りでのロケもしやすい」という逆転の発想で、1996(平成8)年からPRの一環としてCM・映画・ドラマのロケへの撮影協力、現在のフィルムコミッションの先駆けともいえる取り組みを開始したのです。このロケ地提供に対し、「沿線が郊外の新興住宅地のイメージに合う」とテレビ局や制作会社から申し込みが殺到しました。1996(平成8)年には資生堂の化粧品「マシェリ・ヘアマニキュア」(新鎌ヶ谷駅ホーム)、トヨタ自動車「新型カリーナ」のTVCM(千葉ニュータウン中央駅改札)はじめ、日本を代表するミュージシャンCharのプロモーションフィルム(矢切駅)、缶コーヒー「ジョージア」のTVCM(新柴又駅ホーム)などが撮影され、その後も鉄道ロケのメッカとして全国に名を轟かせました。2005(平成17)年にはオタクを主人公にした映画が異例の大ヒットを記録しましたが、その名場面でも北総線は重要な役割を担っています。主人公(山田孝之)が同じ電車に乗り合わせたヒロイン(中谷美紀)を見初めるシーン。そう、映画『電車男』です。その背景で静かに存在感を発揮しているのが北総線矢切駅でした。「日中の電車本数が少ない=ご利用されるお客様が少ない」ということは本来、鉄道会社にとっては憂慮すべき事態ですが、その苦境を逆手に取り、都会的な地下鉄駅の風景や、都市近郊の高架駅など、様々な撮影シチュエーションにも対応出来る多彩な鉄道施設を武器に、白昼に大人数のエキストラを動員した駅での撮影など、日中もお客様の多い他社線では実施が難しい撮影も次々と精力的にこなして行きました。当社が撮影協力を行うことが話題となれば、北総線のPRにも繋がります。やがて沿線市民からも「この間のドラマにホームが出ていたよ」といった会話が当たり前に聞かれるようにもなりました。撮影協力による収入も、多い年は2,000万円を超え、貴重な収入源ともなりました。921映画の撮影風景(印西牧の原駅)2 CMの撮影風景(大町駅)3情報番組の撮影風景(大町駅)1996–平成8年7.北総線沿線が映画やCMの 鉄道ロケのメッカに
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