起工式から早5年、その日、小室駅には、当社関係者、川上・千葉県知事を始めとする各界の人士、今か今かとその瞬間を待つ地元住民や鉄道ファンらが集っていました。開業前日の1979(昭和54)年3月8日、北総開発鉄道第1期線(北初富~小室間)の発車式です。そこに現れたのは、ステンレス製の車体に流れるようなブルーのラインも鮮やかな6両編成の電車7000形でした。初めてその雄姿を見た参列者から「おお」と驚きの声が上がりました。運転席の下方視界を確保し、雪やゴミなどが付かないよう前窓を傾斜させた「Σ形の前面フォルム」がいかにも新鮮に映ったからです。このデザインは1960年代のフランス国鉄の電気機関車に採用されていたもので、そのゴツゴツした形状は、後に多くの鉄道ファンから「ゲンコツ電車」「Σ形電車」の愛称を頂戴することとなりました。また車両内にはつり革ではなく握り棒を設置するなど、ヨーロッパの電車を彷彿とさせるデザインも人々の心を高鳴らせました。午前11時30分。電子ホーンの軽やかな吹鳴に続く「汽笛一声!」のホーム放送の後、7000形は車体を陽に輝かせながら小室駅を走り出しました。走り出した電車の車窓には、高層分譲住宅410戸や、一戸建て分譲住宅582戸が居並ぶ出来たばかりの新興住宅街が広がります。立体交差の国道16号線の橋を抜けると一転、暖冬で二週間早く芽吹いた梨畑、造成地にはブルドーザーなどの重機もあちこちに見え、いかにも開発途中の光景が流れていきました。国鉄鷹取工場長から転じ、当社主任技術者を務めていた専務・黒岩源雄氏は、この日を迎えるまでの道のりをこう振り返っています。「“街が先か、鉄道が先か”という議論の中、北総開発鉄道としては人口定着後の開業を希望しつつも、県の意向で街開きと同時に鉄道も開業できるよう進めてきた。その中で地域に愛される鉄道を目指し、1977(昭和52)年8月発足の「デザイン・ポリシー検討委員会」のもと、シンボルマークからシンボルカラー、案内サインに至るまで統一感を持ったイメージづくりに挑んだのだ。まさにCI(Corporate Identity)の先駆けであり、北総台地に調和する高雅清新なブルーの車両や、「ゲンコツ電車」と呼ばれる独特の車両デザインもこの検討委員会から生まれた」と。開業準備も佳境を迎えていました。1978(昭和53)年の暮れ、新設計の車両が西白井の仮車庫で整備を終え、初めて本線上に徐行で姿を現した時の光景を、黒岩氏はこう語っています。「線路横で柵垣を結っていた建設会社の作業者の中から期せずして“万歳”の声が湧き起った時は、工4611 小室駅開業アーチ2 北総鉄道第1期線発車式テープカット(昭和54年3月8日)3開業祝賀列車(7000形・「ゲンコツ電車」)4花束贈呈1979–昭和54年1.春の陽射しの中 ゲンコツ電車が走り出した日
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