136そして、その最中の2019(令和元)年9月、台風15号(令和元年房総半島台風)が来襲。特に千葉県では、9月9日午前5時頃から観測史上最高となる最大瞬間風速57.5m/sを記録し、電柱の倒壊、電線の切断などにより長期の停電に見舞われたのでした。この時、メディアでは停電の原因の一つとして、千葉県の特産・山武杉の倒木が槍玉に挙げられたのです。山間部の民家は杉林の中に点在するため、林に沿うように電線が繋がっており、そこに杉が相次いで倒れ停電が広がったとされました。ところが実際は山武杉そのものではなく、放置林の病んだ木が倒れたことが原因であると後に判明したものの、県屈指の銘木のイメージの失墜は免れませんでした。このニュースをきっかけに社内で持ち上がったのが「新鎌ヶ谷駅のリニューアルに千葉県産の山武杉を使おう」という企画でした。駅舎のリニューアルに地元の山武杉を使えば、木の温もりもあり、親しみやすさに加えて地産地消をアピール出来るのではと考えたのでした。しかし、銘木である山武杉の建材は高価で、予算内で購入するのは困難であると頓挫しかけた時、救世主が現れました。千葉県森林課です。同課では“ちばの木が香る街づくり推進事業補助金制度”を行っており、千葉県産の木材の利用者に補助金を交付していたのでした。これがまさに渡りに船となり、企画はトントン拍子に進み、県の支援で山武杉を調達し、11月26日に待合・交流スペース「STATION LOUNGEこもれび」が完成したのでした。駅構内に忽然と現れた山武杉のモダンなベンチや柱は、多くの駅利用客の目に留まり、休憩の場や待ち合わせの場として賑わうのでした。さらに地元の木材を使うことで地域活性化や森林育成の役目も担えたのです。以降も設備のリフレッシュは各所で続いたほか、駅の発車ベルのリニューアルも行いました。2017(平成29)年3月31日、駅や路線に愛着を抱いても1新鎌ヶ谷駅リニューアル工事完成(令和元年6月16日)2リニューアル後のコンコースには「STATION LOUNGE こもれび」が設けられた3リニューアルされたコンコースらう試みとして、矢切駅では細川たかしの大ヒット曲『矢切の渡し』を、8月には新柴又駅で葛飾柴又寅さん記念館の開館20周年に合わせて映画『男はつらいよ』のテーマ曲を導入しました。この耳馴染みのある“音のデザイン”による効果はメディアでも取り上げられ、駅に親しみを感じる人が増えると同時に、ドアが閉まるタイミングが心地よいメロディで分かるようになったため、安全性と快適性の向上にも繋がりました。また、2018(平成30)年からは、従来のATS装置(自動列車停止装置)と比べ、保安度が一層高まるC-ATS装置への全線切り替え工事にも着手しています。工事は2021(令和3)年度末現在、京成高砂駅~東松戸駅間まで完了し、他の区間についても順次工事を進めて行きます。こうして装いも新たに北総鉄道は走り出すのでしたが、次なる試練の足音は、もうそこまで忍び寄っていたのです。
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