ところが当時の社内には、このC-ATS装置に明るい者がおらず、「国交省や鉄道・運輸機構からかき集めた信号の回路の図面をもとに、システムをゼロから構築していった」と氏は振り返ります。しかも特別工事部の担当メンバーは、当社プロパー社員のほか、京成電鉄からの転籍者や、建設コンサルタント会社、電気工事会社の出向者も含めた混成部隊で、皆、額を突き合わせて懸命に意思疎通を図りながら万全の安全体制を築きあげていったのでした。そんな中、忘れてはならない痛恨事もありました。2008(平成20)年1月25日、印西牧の原駅構内で重大インシデントが発生したのです。夜間工事の担当責任者が、その日の営業最終列車通過の後に臨時回送列車の運行があることを失念。同列車の通過前にも関わらず、工事のための線路閉鎖手続きを行い、作業員が工事の準備を進めていたところ、回送列車が接近して同所を通過するという事件が起きたのです。鉄道重大インシデント調査報告書によると、「列車の前部標識の明かりのようなものが見え、列車が来る気がした」工事責任者の咄嗟の判断で作業員全員を線路上から退避させ、幸いにも負傷者を出さずに済みましたが、一歩間違えれば取り返しのつかない大事故になりかねない事態でした。事件はNHKのローカルニュース枠でも取り上げられるなど、不名誉な事で北総鉄道の名が世間に報じられることにもなりました。この重大インシデントを受け、当社では直ちに再発防止対策を講じたのはもちろんのこと、以降、毎年1月25日の前後には、安全意識を高める訓練や教育を実施し、事件を風化させる事の無きよう戒めとしています。こうした紆余曲折を経て軌道・土木、信号・電気の全ての工事を終えたのが特別工事部立ち上げから5年後の2010(平成22)年。総勢1万人以上が関わった大工事はついに竣工を迎えたのです。京成電鉄による習熟運転が始まったのは2010(平成22)年3月25日。レールのはるか彼方から、これまでの通勤電車とは全くフォルムの異なる真新しい車両がスピードを上げながら北総線内に入って来たのでした。その様子を見た当時の駅員は「流線型の新型スカイライナー車両の姿を北総線で目にした時、線路が成田空港に繋がったことを実感した」と回顧しています。まさに総力を結集して改良した軌道が、北総線内初の130km/h走行をしっかりと支えていたのです。後は開業を待つばかりとなり、北総鉄道社内は、期待と高揚感が高まっていくのでした。12055鉄道重大インシデント調査報告書
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